
旧暦の1月16日に行われる十六日祭は、沖縄では墓参りをする日とされています。「あの世の正月」といわれる十六日祭ですから墓参りをするのは当然かもしれませんが、その理由とされる話には様々なものがあります。
正月の神様がいる間は墓参りが許されなかったことが理由
正月といえば、正月の神さまが自宅でゆっくりと過ごす日です。神様は神聖な場所でなければ避けて通ってしまうため、正月前になると家中をきれいに掃除し、松飾を入口に飾って正月の神さまを迎えます。
でも沖縄ではご先祖様も神様です。33回忌を迎えると土地の神さまとなるのですが、それまでは家の神様であるため、ご先祖様に会いに行くには墓に行かなければいけません。ところがお墓は不浄の場であると考えられているため、お正月の神さまにとっては大敵です。
正月の神さまも先祖神様も、沖縄の人にとっては大切な神様に違いはありません。でも「わざわざ福を招くために自宅に来ていただいている正月の神さまを不快な思いにさせてはいけない」ということで、松飾を外すことが出来る旧暦の1月15日までは墓参りはできません。その代わりにこの世の正月が終わった翌日を「あの世の正月」とし、墓参りをしてご先祖様を盛大に供養するようになったといいます。これが十六日祭に墓参りに行くようになった理由だといわれています。
正月にたった一人で亡くなった恋人の墓参りをした美女の話が噂になった?
これは、那覇や首里地方で伝えられている話です。ある年の小正月に、守礼門と中山門の間で大規模な競馬が行われました。翌日も別の場所で競馬が行われたため、正月最後のイベントを楽しもうと多くの人々が会場近くに集まり、気がつけば周辺は黒山の人だかりとなっていました。
みんなが競馬に熱狂し華やかな正月の気分を満喫している最中、たった一人その場に足を運ぶこともせずひっそりと墓参りをしている美女がいました。その美女は最愛の恋人を失くしたばかりで、正月ムードが漂う会場に足を運ぶ気にはなれず、たった一人でこの世を去ってしまった恋人の魂を慰めるために人目を忍んで墓参りに出かけていたのだそうです。
そんなけなげな彼女の姿が人々の間で噂になり、いつしか十六日祭では大切な人を見送った人たちが墓参りをして死者を祀る日とされるようになったといいます。
ある人が十六日祭で墓参りをすると魂を取られる
一般的に十六日祭で墓参りをするのは、前回の十六日祭からの一年間に死者を出した家族や親族といわれています。そのため沖縄本島では、亡くなってはじめて十六日祭を迎える死者のための供養行事という意味で「ミーサ」と呼ばれています。
ところが八重山地方の一部では、十六日以降の一年間に家族を亡くした人が十六日祭で墓参りをすると、なんと墓参りをした人の魂が捕られてしまうという言い伝えがあります。地域によっては全く真逆の意味を持っているのも、十六日祭の墓参りにまつわる話の面白い点です。
十六日祭は死者があの世とこの世を繋ぐ橋を渡る日?
沖縄本島では十六日祭に墓参りをするのが一般的なのですが、地域によっては墓参りをせずに家の仏壇で死者の供養をするところもあります。
墓参りをせずに自宅で供養をする理由にも様々な説があるのですが、中でも備瀬ではこの日を「アラバシ渡りの日」とし、あの世とこの世に架けられた橋を早くわたるように死者に促すための日と言われています。
なんでも昔の沖縄の人は、この世に未練を残して成仏できずにいるとマジムン(魔物)になってこの世をさまよってしまうと考えていたそうです。そのためなのか、アラバシ渡りの日は「迷わずに早く橋を渡ってあの世に行きなさい」という想いを込めて死者の供養をするようになったといわれています。